いつか気持ちが通じなくなるんだとか 思わなかったわけじゃないけど
こんなに早くて 唐突だなんて思わなかった。
その時天国は憔悴していた。傘もささずに雨の中を途方に暮れたように歩いて。
涙が止まらなかった。
「猿野!?」
雨音にまぎれて自分の名を呼ぶ声に気付いた。
声の主は 御柳芭唐。
今、自分をここまで落ち込ませている男の…後輩だ。
I do it vacantly
「悪いな、迷惑かけて。」
「らしくねえこと言ってんじゃねえ。」
雨に濡れていた天国を、御柳は問答無用で近くにあった自宅のマンションに連れた。
らしくない、とは思う。
だが御柳にとって天国はほっときゃいい、と思える存在ではなかった。
「…何かあったのかよ?」
御柳は単刀直入に聞いた。
今日は、確か。
アノヒトと一緒のはずだったのに。
(何で泣いてるんだ?)
答えてくれるとは、本当はあまり思っていなかった。
だが、天国は自嘲するように笑って。
また涙を一筋こぼし、虚ろな眼差しで言った。
「…信じないって…俺の事…。」
「…え…?」
「好きだって…言ってるのに…信じないって…。」
「…言ったのか。屑桐先輩が…。」
天国はうつむいて 無言で頷いた。
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その次の日も、雨は止まなかった。
天国は昨晩の夜遅く、御柳が止めるのも聞かずに哀しげな顔のままで自宅へと戻った。
だが、御柳は眠ることは出来なかった。
(あんな顔見るために諦めたんじゃねえ…。)
天国の辛そうな顔が、雨に打たれてこぼす涙が頭から離れなかった。
それと同時に、ソンケイしているはずの先輩への怒りがこみ上げた。
御柳が天国への想いを自覚したのは、天国が彼と付き合っているのを知った瞬間だった。
屑桐のところに来た天国の笑顔は、それは幸せそうで。
屑桐も見たことも無いほどに穏やかな笑みを見せて。
二人の間に何か特別な絆が出来たのを、イヤでも感じさせた。
そのことにショックを感じたのが、自覚の始まりだった。
夏が過ぎて、御柳と天国は友人といっても差しさわりの無い程度の関係になっていた。
御柳にとってはなんの気負いもなく、対等に話すことのできる相手。
驕りもせず、見下しもしない。する必要の無い相手だった。
それは御柳とって特別ともいえる存在であることを意味した。
だから、そんな彼が屑桐に取られたことに、ショックを受けた。
そして程なく。
天国が傍にいるときに抱きしめたくなる自分に気づいた。
最初から行き場なんて無い気持ち。
伝えないままで昇華させるしかできなかった。
天国は屑桐しか見ていなかったから。
なのに。
「何か言いたいことがありそうだな、御柳。」
「!」
御柳は顔を上げた。
今は部活中。雨でグラウンドが使えないため、筋トレの最中だった。
「…先輩。」
「言いたいことがあるのだろう?
人を殺しそうな眼で見て、何が言いたい?」
常日頃から、そう暖かい言葉遣いをする人間ではないが。
御柳はこの屑桐の言葉に、強くない堪忍袋の緒を切らした。
「だったら…言わせてもらいます。」
押し殺した声で前置きすると。
突然、御柳は屑桐の襟首につかみかかった。
「アンタ…猿野を信じられないとか抜かしたそうですね。」
その言葉を聞いて、屑桐は一瞬眉間を動かすが。
特に感動も無く返した。
「…聞いたのか、天国に。」
天国、と名を呼ぶ。
そのことさえも今の御柳には火に油だった。
「アンタ何様だよ!あんな眼させて…泣かしやがって…!
信じられないならとっとと別れたらどうなんだ?!」
激情にまかせて叫ぶ御柳に、屑桐は口の端を軽くあげる。
哂っている。
「そのあとにお前がおさまるのか?…無理な話だな。」
「…!!」
「見たんだろう、天国の眼を。
…あんな眼をさせられるのはオレだけだ。」
御柳は、屑桐の昏い笑みを見て悪寒を感じた。
「…屑桐さん…?」
「天国はオレ以外のものにはならん。
信じるも信じないもない…それだけだ。」
御柳はこの時、初めて屑桐無涯という人間を知ったような気がした。
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後日、天国は屑桐と和解をした、と御柳に電話をしてきた。
それが和解ではなく、屑桐の意図のむくままの事であったのは…容易に想像が付いた。
それを知らず天国は幸せそうな声で話した。
そうだ。
知らなくとも知っていても、こんなに天国を動かすのはあの男だった。
それを思い知らされた時。
御柳の虚ろな眼から一筋、涙がこぼれた。
end
タカさま、大変お待たせして申し訳ありませんでした!
そして素敵なリクエストありがとうございました。
独占欲の強い、ということでどこか薄暗い、いや真っ暗い屑桐さんができました。
散々お待たせして、こんなのですみません…!!
私的にはとても楽しく書けましたけど(苦笑)
では、改めまして素敵なリクエストありがとうございました!!
こんな管理人のサイトですが、またお越しいただけると嬉しいです。
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